メキシコの蛍石

  メキシコの蛍石というのは国別に蛍石を集め始めなければ、中国やアメリカ・はたまたヨーロッパの蛍石と比べて目に留まりにくいかもしれません。

しかし、現在メキシコは中国についで世界第二位(2013年統計)の蛍石生産国となっており、それゆえメキシコから良質な蛍石標本も市場へと流れてきます。

 

メキシコの蛍石標本として知名度を最も得ているのはナイカ鉱山の蛍石でしょう。ナイカはその石膏やクリスタルの洞窟で広く知られているのだと思います。

しかしながら、良く見かけるのものにはEl TuleやEsperanzaといったMuzquizの蛍石であったり、はたまたNavidad,El Filio,Mapimi,Ojuela鉱山といったDurangoの蛍石あたりも含まれているのではないでしょうか。

そしてナイカに比べると知名度で劣りますが、面白い蛍石を産出しているSan Martin鉱山も見逃すことはできません。

 


Naica

Gibraltar Mine, Naica, Mun. de Saucillo, Chihuahua, Mexico

Mined in early 2007

60mm×40mm×35mm

 

”クリスタルの洞窟”を擁し、鉱物界を超えて名を知られていると思しきナイカ。

そのナイカの名は蛍石を収集するうえでも幾度となく見かけることとなります。そんなメキシコ・ナイカの蛍石標本。

 

無色透明に近く一部がアップルグリーンに色づいた結晶は、立方体とドデカヘドロン由来の面を持ちます。黒い閃亜鉛鉱とあいまって、透明度が引き立っているような気もしますが標本としてはまずまずのものなのだと思います。

個人的には、こういったものは無色透明というよりもシルバーに近いかな…と感じてはいるのですが、ビシッとした写真を撮るのがほかの色に比べて難しんですよね、ダリネゴルスクの透明物やアストゥリアスの無色透明物同様に。

 

1952年以来、半世紀以上の歴史を持つナイカ鉱山。

ナイカの蛍石は無色透明のものが多いですが、紫やアップルグリーンのものなどもありますし、この標本のようにCube+Dodecahedronのものか、八面体式の結晶が主流と言えるでしょう。一方で水入りの結晶やスピネル式双晶の結晶も一部には存在しており、"沼"といっても差し支えないことでしょう。

 

ちなみに単純にNaicaまたはNaica鉱山と書かれているもののほかにも、Gibraltar MineだとかSiglo XX Mineだとかいろいろあるようで詳しいことはあまりわかりません。いつかシッカリと文献とかを調べてみたいところです。

Naica, Mun. de Saucillo, Chihuahua, Mexico

Mined c. 2008

Miniature Sized

Ex. Herre Zondervan Collection

 

ナイカの蛍石でも人気の高いスピネル式双晶をなす蛍石。

蛍石は透明度もよく、青紫色に色づく面が鮮やかではありますが、なによりその普段とは違う平板な形状に目がいくのではないでしょうか。黄鉄鉱との共生/内包や、水入りであることも標本としてポイントが高いですが、このタイプの標本ではしばしば見受けられるものです。

 

1980年前後に産したTorino-Tehuacan Chimneyのスピネル式双晶の蛍石には世界的に有名な標本が幾つか存在しますが、2000年代後半以降に産出したスピネル式双晶のものはそれらと比べると小振りな結晶で3㎝を超えることはほぼほぼありません。これは結晶も2cm超えと比較的大きく見た目も美しいミニチュアとしてニンマリするところです(上には上がありますが)

(2017/8/6)

Naica, Mun. de Saucillo, Chihuahua, Mexico

5cm wide

Ex. Art Smith collection.

Acq at Munich 2019

 

2008年頃に産したものではなく、恐らく1980年代の、いわゆるクラッシクな標本。

想像してみてください、ほんのり紫に色づいた、ABSOLUTELYにTRANSPARENTな蛍石が、5㎝ものスピネル式双晶をなしているのです。蛍石コレクターにとっては宝石そのものですよね。

 

パリにある夢の国に入国することを交換条件に家族と2019年秋のミュンヘンショーに訪れました。海外のミネラルショー参加は初めての機会でしたが、ネット上でやり取りをしたことのある業者にコレクター、友人と複数あうことが出来ました。その際、そういった業者のひとつにこれが置いてありました。せっかくヨーロッパのミネラルショーに出たわけですから、欧州産の蛍石を持って帰るはずが、気づいたら手荷物に増えていたんです。この標本。

 

2020年はCOVID-19の猛威により、渡航制限、ロックダウンが続き、ミネラルショーどころではありませんでした。初夏のサンマリー、そして秋のミュンヘンはあえなく開催断念に。来年無事開催できる状態になってくれることを祈るばかりです。ありきたりな感想ですが、昨年訪れることができて良かったなと。

(2020/10/30)


Navidad Mine

Navidad Mine, Abasolo, Rodeo, Mun. de Rodeo, Durango, Mexico

Small Cabinet Size

 

一時は一山幾らで売られていたNavidad鉱山の紫色の蛍石。

ピンクやホットピンクと称して売られているの見かけますが、絶対にこれは純たるピンクではないと思います。ラズベリー色というのが納得できるのではないでしょうか。元々はドス黒い紫色で、太陽光に曝していうるちに色が薄まりこの色になるのだとか。

 

とはいってもこの標本はよくあるNavidadの蛍石の中ではレアタイプ。どういうことかと言うと、ほぼすべての物は八面体式の結晶がべたぁーっと連なって見た目が悪いのに対して、これは八面体が良い感じにisolatedになっています。isolatedになったものは非常に少ないのです。

(2017/2/12)



El Tule Mine

El Tule Mine, Melchor Múzquiz, Coahuila, Mexico

Mined in May/ 2015

Miniature Size

 

淡く紫系統の蛍石と白く濁った天青石の母岩の組み合わせというEl Tule鉱山の典型標本。

ただし透明度・照り両立の具合が以前の物に比べて隔絶しています。

透き通るような透明さに眩い煌めき。これらは相乗効果を生み出し、藤紫色の宝石を散りばめたかのような印象を与えます。 実物は写真の3倍くらい輝いているのですが、きっと同Findのものを見かけたことがある方は察してくれることでしょう。

 

El Tule鉱山を含むMuzquis一帯からは紫色系の蛍石が良く流通し、黒に近いような濃い紫から淡い無先色までバリエーションに富みます。

形に関しては、骸晶の発達具合によって受ける印象は異なるものの、概して立方体と言えるでしょう。

El Tule鉱山はそれらの中でも質の良い標本を産出しているとうかがえ、板状の白い天青石に紫色の蛍石が乗るタイプは高く評価されています。

ただここまで照りがでることは、本当に、稀と言えるでしょう。

(2017/2/15)



San Antonio Mine

San Antonio Mine, East Camp, Santa Eulalia, Mun. de Aquiles Serdán, Chihuahua, Mexico

Ex. Janet and Lee Kuhn Collection

 

メキシコの蛍石産地としてはナイカやMina Navidadなどと比べると知名度はありませんが、かといってマイナーな産地ともいえないSan Antonio鉱山の標本。

 

ミルキーな水晶の周りを砂糖掛けするかのように細かい蛍石が覆っています。

根元には大き目の結晶が幾らか散らばっており、結晶の端は丸みを帯びて独特な感じ。

あまりメキシコという印象を受けない標本かもしれません。

 

San Antonio鉱山は紫色の蛍石がメインの様で、無色~緑色のものも存在しているようです。メジャーと言えるほどの鉱山ではありませんが、このSanta Eualia一帯からは一定数の蛍石が流通してきています。

ちなみに以前の持ち主のKuhn夫妻は蛍石やメキシコを中心に蒐集していたアメリカ在住コレクターだったようです。

(2016/8/25)


Potosí Mine

Potosí Mine, Francisco Portillo, West Camp, Santa Eulalia, Aquiles Serdán Municipality, Chihuahua, Mexico

1.8cm tall

 

菱マンガン鉱でしられるサンタ・エウラリアのPotosí Mine

その共生鉱物として蛍石がでることはあまり知られていません。結晶のバリエーションには富んでいるのですが、その多くは無色で数mmサイズのマクロ写真むけのものが多いこともその一因なのでしょう。ただ

時にピンク色の菱マンガン鉱と共生する姿が美しい標本があることも事実です。

 

それでこれです。なんと18mmもある蛍石の結晶ですよ。色も若干薄めですがシーグリーン。

逆に1mm~2mmのマイクロな菱マンガン鉱もついている、主従逆転感も好きですよ私は。

Potosí Mineであることを考えると、とてもラブリーな標本なのでした。

(2020/6/12)