コロラド州の蛍石

 

コロラド州の蛍石では菱マンガン鉱で有名なSweet Home鉱山から産出した青紫の標本が人気と知名度で(そして絶産であるため価格においても)群を抜いているでしょう。しかしコロラド州は、スイートホーム以外でもUnaweep Canyonの紫水晶と層をなす緑の蛍石や、Lake Georgeなどの煙水晶やアマゾナイトと共生したもの、Mt. Anteroの八面体など、知名度は劣りますが非常に個性的なものが揃った集めがいのある場所なのです。日本国内で見かけることが少ないのがたまに傷ですが。

 

 


Sweet Home Mine

Sweet Home Mine, Mount Bross, Alma District, Park Co., Colorado, USA

3.5cm wide

Collected in 1977 by Dave Bergman

Ex. Kyle Kevorkian collection

Formerly in Richard Kosnar colleciton

Photo by Kiyoshi Kiikuni

 

どうしてもSweet Home 鉱山の標本を語るとき、我々は1991年にCollector's Edgeが中心となって採掘権を得て、のちに鉱山を買い取り、2004年に閉山するまでのものにばかり意識が行くと思います。それは供給量からいっても、標本の質から言っても当然となるわけですが、1873年に銀鉱山として始まり、菱マンガン鉱でむしろ知られるようになっていたものの銀鉱山としては低品位すぎて採算が全く合わず、1967年に一度閉山するまでの歴史をまず理解しておく必要があります。今日でもSweet Home鉱山の菱マンガン鉱標本でトップツーの知名度をほこるAlma Queenも1926年のポケットのものですからね。

そして67年に閉山して以降も、コレクターからは菱マンガン鉱に対する強い需要があって、何度か再開発が試みられ、のちの91年からの煌びやかなストーリーとつながるわけです。

かといって、この67年から91年までのおおよそ四半世紀はまったく良質な標本がでなかったかというと、そうではありません。例えば1977年頃にRichard KosnarやDave Bergmanらが良質な標本を見つけています。そして今回の標本はそれらのうちの1つなわけです。


菱マンガン鉱を一部内包した3cmにも及ぶ青紫色のスイートホーム鉱山の蛍石。どんだけ贅沢やねんって話ですよ。いまやツーソンショーでも毎年展示を出すようなアメリカのコレクターがいるのですけれども、そのコレクションの中に蛍石標本は4つだけあるよ〜と見せてもらったことがあって、中でも特に目を引いたのがこのスイートホームでした。本当、初めて見た時は「うわまじか」ってあほ面を晒したのが非常に印象に残ってます。それから数年して、縁あって我が家に来ることになりました。


実は1977年に幾つか開いたポケットの中に、菱マンガン鉱が蛍石に若干内包していた特別なポケットがあって、その中でもトップクラスの標本がこれなんですよ。もうアメリカントレジャー。USA!

(2022/2/18)




Sunnyside Mine

Sunnyside Mine, Bonita Peak, Gladstone, Eureka Mining District, San Juan Co., Colorado, USA

Mined c. 1960's

Attr: Level F or Level G

Miniature Sized

 

コロラド州、菱マンガン鉱と共生した蛍石とくるとSweetHome Mineが真っ先に思い浮かぶと思いますが、Sunnyside Mineにも言及する必要があるでしょう。というより、歴史的にはこちらのほうが旧く、現代では良品を入手することが困難な、コロラド州の銘柄標本の一つだったりします。コレクターなら一つは欲しいというあれですね。

 

この鉱山は19世紀末から開かれた鉱山ですが、我々蛍石コレクターの目を惹くことになる、薄い緑色の蛍石と、サーモンピンク色の菱マンガン鉱が共生した標本は大抵1960年代のものです。元々別鉱山からつなげられたAmerican Tunnnelという箇所で産出したとされ、それがゆえにSunnyside Mineとラベルされたもの、American Tunnnelとラベルされたものが入り乱れています。

 

■追記■

実はAmerican Tunnel ではなかったようだ。様々なところでAmerican Tunnel産とされる標本に遭遇してきたので疑ってすらいなかったのですが、実はこれよくある誤解なんだそう。

American Tunnelはあくまで鉱石を運搬するトンネルでしかなく、いずれの鉱体からも離れた位置にあって、大した標本が見つかったことは実際のところなかったんですって。知名度とは裏腹に、なんともまぁ。

わかる人ならわかると思いますが、この情報はBrian Kosnar氏から直接聞いたもの。むしろFまたはG Levelが正確な産地だろうとの事でした。感謝です。

 

むぁそれはさておき、この標本。八面体の心地よい緑と、ピンクのコントラストが派手ではないけれど可愛らしい。そういうね。いろいろ御託は述べましたが、結局のところ「可愛い」と感じられる標本はあんまりでないんですよね、ここも。

(2020/2/21, 3/5)


Nancy Hanks Mine

Nancy Hanks Mine, Unaweep Canyon, Unaweep Mining District, Mesa Co., Colorado, USA

Miniature Sized

 

毒リンゴ味のリップですよ。これ、絶対。

 

アップルグリーンの蛍石と紫水晶の共生でよく知られるUnaweep Canyon あるいはNancy Hanks Mineですが、紫水晶と緑の蛍石が層状になった色の違いを楽しむタイプの標本か、あるいはドルージーでもこっとした緑の結晶の2種類が多いのが実際のところ。

鮮やかな緑で、はっきりした蛍石の結晶、そして紫水晶とのバランスのよい共生っていう標本はほとんどないんです(あるいはあっても見かけないのか)

 

そしてこの標本の話にもどってきましょう。

紫水晶は申し訳程度のこまかな結晶ですが、蛍石の毒々しいともいえるリップグロスをぬったかのように鮮やかな色。唇の形。めっちゃ可愛いくないですか?私が今までこの産地でみた蛍石の中で一等可愛いですね。I bet!

(2020/6/26)


Smoky Hawk Claim

Site D, Smoky Hawk Claim, Crystal Peak, Teller Co., Colorado
4.5cm tall
Pinnacle 5 Mineralsを経営するDorris一家によって採掘がおこなわれているSmoky Hawk Claim。その鮮やかな青緑のアマゾナイトや煙水晶と共生する様は多くの鉱物蒐集家の目を奪っているわけですが、Smoky Hawkでも蛍石は出ます。しかも大抵貫入双晶として。淡い紫色から極淡い水色がよくある色合いといえるでしょう。ただ決して豊富というわけではなく、時折目にするといった程度のもの。
それがアマゾナイトや煙水晶と共生するとなると、その価値は倍々ゲームの様相を呈し…というわけなのですが、あいにくこの標本は蛍石単品のもの。ただちょっと面白いんです。
一つは紫色の貫入双晶を一部覆うように水色の貫入双晶が成長していること。そして、地中で蝕像を受けた楕円状の痕跡がみられるということ。しかも結構サイズもあるという。面白くないですか?
(2022/9/16)

Lakeview Load

Lakeview Load, Park Co., Colorado, USA

Thumbnail Sized

Collected in Spring/2016

 

イギリスと比較すれば知名度に大きく欠けますが、コロラド州もそこそこ良質な蛍石の貫入双晶がでる地なんです。

というわけでコロラド州の貫入双晶なんですが、これ実は、貫入双晶のセプターになっています。どいういうことかというと、ちっこい貫入双晶の上にもう1個貫入双晶が成長してるんです。画像で言うと右下の部分も実は貫入双晶なんです。凄く珍しいですよね。珍しいって伝わってください。

 

下の標本と同産地のもので、ヒッピーなおにいやんが採集して、アメリカのミネラルショーなどで販売している産地のもの。コロラド州でもこの一帯のペグマタイトから産する蛍石は紫色のものが多いのですが、これも無色透明をベースに怪しく紫のファントムが入っています。

(2018/2/11)

Lakeview Load, Park Co., Colorado, USA

30mm×25mm×20mm

Collected c. 2015

 

ベージュ色をした微斜長石に淡いラベンダーカラーの蛍石がのった標本。

淡いラベンダーのところどころには濃い紫の斑点が浮かんでおり、それがまた乙。微斜長石を八つ橋に、蛍石をグミに見立てて眺めたりも。

 

微斜長石(緑になればアマゾナイト)と煙水晶との共生標本はコロラド州の銘柄標本ですが、それらと蛍石が共生することもあります。細かな産地の違いはあるとはいえ同じPark Co.であり、これもそういったものの中の一つとみることもできるのでしょう。

 

なお、土地の所有者(あるいは採掘権を得た人かもしれませんが。)が採集して、アメリカのミネラルショーなどで販売している産地のもの。ちょうど2016年のミネレコ誌1,2月分にもチラッと記載されていたりもします。

2015年7月にはこの地で、エイリアン・アイタイプの蛍石が産出したため一部で話題となりましたが、その標本についてはまた別の機会に。

(2016/4/6)


Mt. Antero

"Bristlecone Overhang", Mt. White area, Mt Antero, Chaffee Co., Colorado, USA

Collected in 1982

3.5cm tall

 

 本当の本当にコレクターとして駆け出してすぐの頃、たぶん2013年とかそれくらいの頃です。2㎝に満たない八面体式の紫色をした蛍石とちょっぴり付着した白雲母が、コロラド州のSweet Home鉱山やSunnyside鉱山でもなければ、Park郡やTeller郡のペグマタイトでもなく、当時私が聞きなれなかったMt.Anteroという産地となれば一も二もなく飛びついたのを今でも鮮明に覚えています。

 入手してから産地をいろいろ調べたところ、ロッキー山脈に属し標高4,351 mにも達し、綺麗なアクアマリンや煙水晶は勿論、フェナカイトや白雲母も素晴らしいものがでる一方で、スイスやフランスなどのアルプス山脈における煙水晶や蛍石(紫から緑まで、あとスピネル式双晶も!)と同様、天候関係から採集できるシーズンは夏に限られることなどを知りました。それからアメリカ人はアメリカ国内で採れた鉱物をとても高く評価することも(そりゃどこの国でもそうでしょうけどね…)

 そんなこんなで実はこの10年ほど、Mt,Anteroのしっかりとした蛍石標本が売りに出されている機会には数度しか遭遇せず、いずれもちょっと野暮ったい標本だったこともあり、入手せずに経過しました。ようやく「可愛いじゃん」って言えるようなMt.Anteroの蛍石に遭遇したので、やっぱり速攻で入手しました。抗いようもなく。たぶんこれは可愛すぎて、永久保存はできませんけど、コレクターを終えるときまでは手放さないと思いますね。

 あ、でも某ディーラーのマイコレクションになってるあのアクアマリンに蛍石ついてるのは本当に最高なので、あれはいけないと思います。

 (2023/2/5)


Astro pockets

Astro Pocket #2, Pikes Peak, El Paso Co., Colorado

Mined c. 2019

Thumbnail Sized

Figured in Mineral  News Vol35. No.7

 

この数年間で時々見かけるようになったコロラド州パイクスピークの蛍石。

元々この周辺はアマゾナイトや煙水晶、トパーズなどで有名な地です。蛍石自体も知られてはいましたが、それらに比べると、なんというかまぁ、知られているだけという感じでした。

ところが2016年の中頃から、この手の角に紫のファントムが入った蛍石がちらほらと見られるようになり、数年たって一定の知名度を得るようになってきました。

元々は2015年末に煙水晶がメインのポケットが開き、その中にすこし蛍石も含まれていたとのこと。そこから周囲を探索して、蛍石が多数含まれたポケットを見つけ今に至ったんだとか。ちなみにAstroという名前はかっこよさがありますが、発見者の飼育していたゴールデンレトリバーの名前に由来するんですと。

 

基本的には1cm前後の結晶が多く、物珍しいけれども大きさが足りない標本も多いのは事実です。時に煙水晶や母岩付きもあるようですが、あまり多くは見られません。

ただ時に貫入双晶であったり、緑色を含んだ結晶も見られたりとコレクターの目に留まる標本もポツポツ出始めています。この標本も綺麗な貫入双晶になっていて、なおかつほぼ2cmと私的には好み。

今後も良質な標本の産出に期待です。

(2019/11/1)


Moffat Tunnel

Moffat Tunnel, Cripple Creek District, Teller Co., Colorado, USA

Collected in mid 2015

68mm×40mm×25mm

 

昨年見かけた人も多いのではないでしょうか、コロラド州の変わり種蛍石標本。

100年ほど前に廃鉱山となった金鉱山から昨年の夏ごろに掘り出してきて、採集の一部はテレビも入ったという触れ込みのもの。

物としては数mmの紫色な蛍石がこれでもかと散らばっており、白い部分は濁沸石のバライト仮晶とのこと。紫色をした毒々しい子持ち昆布みたいな感じの標本です。

そして撮影はおろかすこし触っただけでも、蛍石がボロボロととれやがります。触りたくない。

 

ただ鉱山名については、もしかしたら?間違っているのかも。CrippleCreekまでを産地として流通していることが多いかもしれません。なんにせよ、レア物の類。

(7/2/2016)

 

幾つかの情報から判断すると、やはり産地が違うところだった模様。

Moffat Tunnelという1920年代に開通したトンネルとのこと。

(8/16/2016追記)


Tarryall Mountains

Tarryall Mountains, Jefferson Co., Colorado, USA

3.5cm

Collected in 2022

 

この沼の浅瀬でちゃぷちゃぷし始めてからというもの、新年あけましておめでとうございます早々、さぁツーソンショーのお時間となりましたな時間軸を生きるようになりまして。貰ったお年玉も、本来親戚の子供に渡すお年玉も、年末のボーナスも全て年明けのツーソン用と化けてしまう逢魔時ですわな。皆々様もいかがお過ごしでしょうか。

SNSが台頭する以前はディーラーやバイヤーの日々更新するツーソンショーレポートを毎日食い入るように見つめ、最近は各種SNSに張り付く虚無ムーブをかましていると、毎年何かしら「こういうのがお目見えしたのね」と察するものです。2021年のツーソンショーレポートの各所で目を惹いたもののひとつが、これTarryall Mts.の蛍石です。

コロラド州のペグマタイトの蛍石は毎年のように何かしらの形で供給されているわけで、色鮮やかなアマゾナイトと共生したり、ヘンテコな貫入双晶をなしたりと一線を画する要素あってほしいところです。我侭ですからね、コレクターってのは。今回の蛍石も鮮やかな黄緑色と淡めの紫の2色が特徴的で、一目みた瞬間に容易にほかのコロラド蛍石と識別可能なものでした。

当初のものにはGreen Lantern Pocketと称された蛍石もありましたが、ネーミングセンス…

ただコロラド州蛍石あるあるの、複数の問題に遭遇しまして早2年ほど。ようやく入手に至りました。あーこれは良い。良い。でも星の選ばれた勇者って言うよりは、かわかっこいい系じゃないですかね?

今年も良い蛍石が入手できますように。

 

(2023/1/7)


Hack-it Mine

Hack-it Mine, Teller Co., Colorado, USA
2.5cm 

 

何かとコロラド州の蛍石に縁がある。取り立てて探しているわけでもないのに、新しいものに何度となく遭遇する。それには自分が所属しているSNSプラットホーム上の偏りもあるのだろう。コロラド州では、地元の山か何かを掘れば蛍石やら水晶やら出てくるのだろうか。最高なんだろうか。そうだろう。そして、懲りずにそれに飛びつく自分がいる。困ったものだ。

 

これは昨年夏に採集されたものである。蝕像をうけた八面体で、決して良い形でもないのだけれど、青紫と緑がまじった絶妙な色づかいに目を引くものがある。結局色なのか。色は全てを凌駕するのか。するんだよ。何か好きで蛍石やってるか考えるんだ。

 

それにしても、Hack-it Mineとはなんとも自肯定感に満ちた名前である。邦訳するならばやったぜ。鉱山といったところか。

(2024/3/17)